有史以来、経験したことのない人手不足。遂には「正社員」の有効求人倍率も1倍を超えて…空前絶後の人手不足時代です。しかし実際は、全ての仕事が人手不足というわけではありません。とりわけ事務職、中でも一般事務職の有効求人倍率は、かなり低調。東京労働局が発表した「職種別有効求人・求職状況」によれば、平成30年10月度の一般事務員の有効求人倍率は0.48。こんな時代にあっても「正社員で事務」は結構厳しい選択肢になっています。
平成30年10月度「職種別有効求人・求職状況(一般常用)」~東京労働局~
それでも根強い事務職の人気。どこかないかと探してみる…すると、未経験からでも事務職に就けるアピールする「無期雇用派遣」という求人募集が多数。そのどれもが派遣会社の求人で、大手はもちろん中小に至るまで、数多くの人材派遣会社が募集中。安定的な事務の仕事がなかなか見つからない昨今、未経験から事務になれそうな、「無期雇用派遣」って魅力的。それなら応募するのもありかも。でのその前に、「無期雇用派遣」の実際、どうなってるのでしょう?
「無期雇用派遣」の実際、インターネットでたたいてみると、、、
・無期雇用契約でも派遣先がなくなれば当然クビ
・派遣なので昇給・賞与もないから貧困なのはかわらない
・派遣会社の都合でコロコロ派遣先が変わる
ネガティブな声が多いのは、「派遣」と付くのが影響しているのか、それとも実際そうなのか。でも、本当なの?無期雇用派遣は、正社員だったらありえないことばかり?「正社員」と「無期雇用派遣」。いったいどっちがよいのでしょうか?様々な視点から比べてみることにしました。
正社員の雇用には「期間の定め」はありません。合理的理由なくいきなり解雇されることは、法的に禁止されています。安心して仕事をすることが出来そうです。では「無期雇用派遣」はどうでしょう?無期雇用派遣も、雇用期間は「無期」。正社員同様、期間の定めはありません。ただし、無期雇用の契約を結ぶのは派遣元(派遣会社)。派遣元と派遣先の派遣契約期間が終われば、その派遣先での勤務は終了です。それでも派遣元との雇用期間に定めはありませんから、派遣元があなたの雇用を維持します。つまり、派遣先がなくなったとしても雇用が失われることはありません。
少し前に話題なったある派遣会社の話。無期雇用派遣のスタッフさんの就業規則に、「当初の派遣先での勤務が修了し、1ヶ月以上次の派遣先が決まらなかった場合には解雇する」と書いてあると話題になりました。やっぱり派遣は解雇されると思うかもしれませんが、この規則に対しては、厚生労働省が明確に違法の可能性が高いとの判断を下しています。
では、正社員なら絶対に解雇されることはないのでしょうか?悲しいことに、そんなことはありません。泣く泣く自主退職に追い込まれたり、一方的に解雇を言い渡されて、問題になるケースもあります。正社員だから絶対に解雇されないかと言えば、原則ありえないけれど、それは会社によって異なるというのが現実なのかもしれません。
派遣の醍醐味と言えば、やりたい仕事を選べたり、自宅の近くの職場を選べたりすること。基本的には、どの派遣会社も一定の希望や事情を考慮した上で、無期雇用派遣のスタッフとして採用し、希望に則したお仕事をアサインしてくれるよう。万が一、派遣先での勤務が終了した場合も、合理的な範囲の中で次の派遣先をアサインすることが基本になります。
一方正社員ではどうでしょう?日本の正社員はいわゆる無限定雇用。仕事内容や部署はもちろん、勤務地さえも、原則として会社が人事権を持ち、自由に配属を決めることが出来ます。家から遠い事業所に配属されたり、希望と違う部署・職種に回されたり。そうなった場合でも会社の命令に従わなくてはならないのが正社員の大きな特徴でもあります。
正社員、無期雇用派遣を問わず、残業があるかどうかは、その会社、派遣先によります。いずれの場合も、残業がある会社もあるし、ない会社もあるというのが実情。ただ、本当に残業代、支払われるのでしょうか?正社員の場合、実態は様々。みなし残業として一定額が支払われるところもあれば、働いた分だけ支払われるところもあります。ひどいところでは、サービス残業が常態化していて、残業代が支払われない会社も…会社によってその状況は大きく変わってしまうのが実際です。
反面、無期雇用派遣の残業には、絶対にサービス残業はないと言えます。サービス残業が発生しない大きな理由は、雇い主である派遣会社の存在。派遣会社は派遣先と、派遣契約を締結し、その内容に従って働いた分の派遣料金を請求します。無期雇用派遣の方には、請求した派遣料金の中からお給料を支払うので、残業代も請求するので支払われます。また、残業時間も派遣先・派遣元双方で管理していきますので、過度な残業に苦しめられることもないでしょう。
正社員のお給料と言えば、月々もらえる月給と合わせて支給されるボーナス(賞与)!一般的には、夏と冬の年2回支給されることが多いようです。お給料の他にまとまった金額が入ってくるのはかなり魅力的です。しかし、正社員なら絶対にボーナスをもらえるかと言えばそうではありません。年俸制をとっている会社では、正社員とは言えども、ボーナスがない会社もあります。また、ボーナスは業績連動で支払われることが多いため、業績の悪い会社ではボーナスゼロなんて悲劇もあり得ます。さらに正社員についてくることが多いのが退職金。勤務年数に合わせて、退職時に支給されることが多いです。
では、無期雇用派遣ではどうでしょう?有期契約での派遣は圧倒的に時給が多いのですが、無期雇用派遣になると月額になることも多いです。ところがボーナスや退職金の支給は、一部の企業で制度化してはいるものの、一般的とは言い難い状況。派遣の延長線上に位置する無期雇用派遣では、月額給与で月々の生活は安定するものの、ボーナスや退職金では、まだまだ正社員には遠く及ばないようです。
正社員は、日本の雇用慣行の特徴のひとつである「職能給」が一般的。勤務年数によって一定程度自動的にお給料が上がったり、昇進のよる業務範囲の拡大や責任が増えることで、能力に見合った昇給があったりします。一方で、無期雇用派遣は「職務給」。担当する仕事によって、派遣会社が派遣先に請求する派遣料金が決められ、お給料も決まります。勤務年数が長いからと言って自動的に昇給することはあまり一般的ではありません。担当する仕事が増える、スキルの向上により生産性が向上するといった明確な変化があれば、それに合わせてお給料が変わることが一般的です。
新年会や忘年会、歓送迎会に社内旅行。働いていると、社内のイベントって、結構頻繁にあるものです。正社員の皆さんは、こしたイベントへの出席が半ば強制されるケース、多いように思えます。一方、無期雇用派遣の皆さんはどうでしょう?雇用期間が無期になったとはいえ、派遣先から見れば派遣社員。社内イベントは誘われることはあっても、強制されることはありません。もし強制されるようであれば、派遣会社の担当が間に入ってしっかりサポート。派遣社員としての派遣先との距離感は、しっかり維持され、不必要なストレスに苛まれることはなさそうです。
ここまで様々な角度から、「正社員」と「無期雇用派遣」を比べてみました。一旦整理をしてみると、、、
どうやら正社員にも色んな正社員が存在していて、一概に無期雇用派遣よりも優れているとはいえなそう。誰もが知っている上場企業や大企業、優良企業であれば、法律もしっかり守っています。こうした企業の正社員には、雇用の安定も、ボーナスや退職金といった金銭面での優位性も、手厚い福利厚生も用意されているようです。こうした企業は、正社員の中でも、安心・安定感の強い「フルスペックな正社員」と言えます。ただこうした企業は、得てして新卒一括採用を行っていることが多い。中途採用で入り込もうとするにはハードルが高い場合が多く、広く門戸が開かれているとは言えないのが現状です。
そんなことを踏まえながら、正社員として入りやすい会社を選ぼうとすれば、実は少なからず注意が必要です。業務拡大による採用拡大ならまだしも、過度なプレッシャーにより社員の離職率が高く、終身雇用など名ばかりといった会社もあります。また、業績が伸び悩んでいたり、経営陣が労働法規に無知であったり。中途採用の門戸は広く開かれているものの、長くは続けられない「名ばかり正社員」なんて企業も、少なからず存在している現実があります。
こうして冷静に見てみると、「無期雇用派遣」も決して危険な働き方ではないように思えます。派遣先が変わったとしても、派遣元には雇用を維持する義務があります。ボーナスや退職金はないことが多いかもしれませんが、正社員特有のお付き合いの煩わしさや、無限定に転勤があったり、サービス残業に苛まれることもありません。
つまり、無期雇用派遣は、上場企業などしっかりした会社の正社員、「フルスペックの正社員」には及びませんが、定着が悪くブラックな要素が散見される「名ばかり正社員」の企業よりは、ずっと安心して仕事が出来るのではないかとも思えます。ステレオタイプに「正社員=善、無期雇用派遣=悪」として世の中を見てしまうと、大きな選択ミスをしてしまうこともありそうです。世の中には偏った見方や固定観念が溢れています。そうした情報の波にのまれ、右往左往することのないように、冷静に自分の望む働き方にマッチした雇用形態を選択することが大切ですね。