全国で猛威を振るった新型コロナウィルス。感染拡大防止を旗印に、休業状態にあるA子さん。今日はいよいよ「休業手当」が振り込まれる日です。仕事もせずに自宅待機、おまけに「休業手当」でお金がもらえる。金額は「お給料の6割」って聞いてるから、何とか生活も出来そうです。
自然とこぼれる笑顔をマスクで 隠し、そーっと明細を開いてみると…
「あれっ?これ間違ってない?6割よりも少ないじゃん!」
そこに書かれた金額は、「お給料の6割」からは程遠い金額。もしかして半分もない!?どうしてこんなことが起こるのか?実際には「お給料の6割」なんて手に入らない「休業手当」の謎を解き明かしていきましょう。
そもそも会社は、従業員の方々に働いてもらい、その対価としてお給料を支払います。ところが、会社が勝手に従業員を休業させてしまうと、従業員は働く場がなくなり、お給料をもらうことが出来なくなってしまいます。こうしたことが起こらないよう、働く人達の保護を目的として、「会社の責任で従業員(労働者)を休業させた場合には、その従業員に対して、「休業手当」を支払いなさい」と、法律で定められているのです。(労働基準法第26条)
A子さんが勤務する会社は、新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的として、会社が自らの判断で従業員を休業させたため、休業手当を支給することになったというわけです。
では、この「休業手当」いったいいくらもらえるのでしょう?この答えも法律にしっかり明記されています。労働基準法26条によると、休業手当のその額は、「平均賃金の6割以上」!これこそ、A子さんが聞いた、休業手当は「お給料の6割」の根拠です。
ところがA子さんが実際手にした休業手当の金額は、「お給料の6割」には大きく満たない金額。なぜそんなことになったのか?そこを詳しく見ていきましょう。
実は、休業手当額の計算方法には決まりがあります。そうです、公式みたいなものがあるんです。その公式とは、、、
「休業手当額」 = 「平均賃金日額」 × 6割(0.6) × 休業日数
これを見ると、一見、「お給料の6割」がもらえるように見えますね。でも実際は違うんです。ここからは、休業手当の計算式を分解していくことにします。
休業手当を算出する際の要素のひとつ、「平均賃金」を計算します。平均賃金の算出方法は、
「休業前3ヶ月の合計給与額」 ÷ 「休業前3ヶ月の合計歴日数」 × 「6割(0.6)」
これで、一日あたりの平均賃金、「平均賃金日額」が計算出来ます。
次に、実際に休業になった日、「休業日」の日数を確認します。「休業日」とは、本来働くことになっているにも関わらず、会社の指示により働かなかった日の数のこと。いわゆる公休日や、シフト等により休日に割り当てられた日の数は含まれない点、注意が必要です。
それでは具体的にA子さんが手にすることが出来る「休業手当」の金額を計算してみましょう。
A子さんは、某通信会社で働く契約社員さん。その就業条件は、、、
給与:月額200,000円(毎月1日~月末日分)
休日:完全週休二日制(土日祝休)
状況:2020年6月1日~6月30日の1ヶ月間休業
6月1ヶ月休業するA子さんの「平均賃金」は、休業となる日の直前の賃金締日の前3ヶ月のお給料から算出します。まず、A子さんのお給料は、「月額200,000円」ですから、
4月のお給料:月額200,000円
5月のお給料:月額200,000円
6月のお給料:月額200,000円
毎月200,000円のお給料ですから、休業日直近3ヶ月のお給料の合計額は、「600,000円」です。
次に、この期間(直近3ヶ月)の歴日数(カレンダー上の日数)を算出します。
2020年4月:30日
2020年5月:31日
2020年6月:30日
直近3ヶ月間(2020年4月~6月)の歴日数は、「91日」です。
次はいよいよ「平均賃金」の計算です。この3ヶ月の「給与総額」と「歴日数」から算出されるA子さんの平均賃金日額は、、、
「600,000円」 ÷ 「91日」 ≒ 「6,593円(平均賃金日額)」
この「平均賃金日額」の6割、0.6をかけて算出される金額が、A子さんに支払われる「休業手当」の日額となります。
「6,593円(平均賃金日額)」 × 「6割(0.6)」 =「3,955.8円(休業1日あたりに支払われる金額)」
次に、A子さんが休業し、休業手当が支払われる日数を確認します。前述したとおり、A子さんは6月1ヶ月休業です。元々土日祝日はお休みだったので、6月中働くことになっていた日数(所定労働日数)は、6月1日~6月30日の日数から、元々のお休みである土日祝日の日数を引いた日数、平日の日数となります。
6月総日数 :30日
土日祝日数 :8日
所定労働日数:22日(所定労働日数)
A子さんが本来6月に働くべき日数(所定労働日数)、休業した日数は「22日」となります。
ここまで来たら、いよいよ実際の休業手当の金額を計算します。ここまでで算出してきた、
平均賃金日額:3,955.8円
所定労働日数:22日(休業日数)
を使って計算してみると、、、
「3,955.8円」(1日あたりの休業手当額) × 「22日」(6月所定労働日数) ≒ 「87,027円」
A子さんの休業手当額は、「87,027円」となりました。
ご覧のとおり、「お給料の6割」と信じ切っていたA子さんの6月1ヶ月の休業手当の額は、「87,027円」となることがわかりましたね。
算出された休業手当額、改めて、A子さんの1ヶ月のお給料と比べてみましょう。
A子さんの1ヶ月のお給料は、「200,000円」。
A子さんが思っていた休業手当額(お給料の6割)は、「120,000円」。
ところが実際に算出された6月1ヶ月の休業手当額は、「87,027円」。実にA子さんの1ヶ月のお給料額の4割弱です。休業手当の金額は、お給料の6割どころか、その半分にも満たない額でした。
A子さんは、純粋に毎月もらっているお給料の6割の額をもらえると思っていました。ところが、休業手当の計算に際しては、平均賃金は歴日数で割るけれど、休業手当は実際に働くはずだった日数、所定労働日数分しか支払われなかったのです。これが休業手当額が「お給料の6割」に大きく及ばない原因だったのです!
お給料の6割の休業手当を手にすることすら出来なかったA子さんには更なる災難が降りかかります。それは、6月分の「社会保険料」の支払いという次なる関門…。6月、一ヶ月間をまるまる休業となったA子さん。お給料の半分にも満たない休業手当しか支払われないこの度も、社会保険料や住民税は、天引きされます。それも、原則として、お給料を満額もらっていた月、休業前の月と同額なんです!
「会社都合で働けなくなったこんな期間、社会保険料や税金までかからないだろう?」というのは思い込み。休業手当もいつもの給料の時と同じく社会保険料や税金の徴収対象となっているのです。
いかがでしたか?「休業手当はお給料の6割」というのは幻想でした。6割と信じ切っていたA子さんは、正に「泣きっ面に蜂」状態。皆さんも、休業手当の仕組みを正しく理解して、A子さんのように、慌てることのないようにしてくださいね。