2015年04月24日

優良派遣事業者が「優良」ではない理由

優良派遣事業者が「優良」ではない理由(アイキャチ)

人材派遣業界初のこころみ

平成27年3月13日(金)、労働者派遣法改正案が閣議決定、国会へ提出された。専門26業務の撤廃や、一定の条件を満たすことで期間制限を受けることなく派遣労働者の受入れが可能になるこの改正案。「非正規助長」、「正社員ゼロ」、「生涯派遣」など、TV・新聞・インターネットの巨大メディアで、賛否両論、大々的に報道された。

業界浄化への決意

労働者派遣法改正案が閣議決定され、「人材派遣」に対する猛烈な逆風が吹き荒れた前日。業界関係者以外、世間の誰からも目を向けられることなく、業界史上初の制度がスタートした。「優良派遣事業者認定制度」。人材派遣業界が、身を賭して、業界の健全化を目指したこの取組み。誰からも取り上げられることのなかった人材派遣業界の、浄化に向けた優良派遣事業者認定制度とは、どういった制度なのだろうか。

ビジネスモデルの枠を超えて

「優良派遣事業者認定制度」は、平成26年度の厚生労働省委託事業だ。委託事業とは、行政が担当すべき分野の事業を、行政にはない優れた特性を持つ第三者に契約をもって委ねる協働の形態である。この事業を受託したのは、一般社団法人人材サービス産業協会。人材サービス産業協会は、職業紹介、人材派遣、業務請負、求人広告など「民間人材サービス」業界によって設立された。まさに、「ひと」に関わるビジネスを試みる各業界が、ビジネスモデルの枠を超えて、業界のサービス向上を目指して、設立した一般社団法人である。

「優良派遣事業者認定制度」とは?

優良派遣事業者が「優良」ではない理由(廻込1)優良派遣事業者の認定を受けるためには、人材サービス産業協会が認定した5つの審査機関による審査をパスする必要がある。認定審査機関が、各人材派遣会社の運営状況を書類・現地審査し、派遣労働者のキャリア形成支援などにおいて優良な人材派遣事業者を、「優良派遣事業者」として認定するのである。「優良派遣事業者認定制度」とは、法令を遵守しているだけでなく、派遣社員のキャリア形成支援やより良い労働環境の確保、派遣先でのトラブル予防など、派遣社員と派遣先の双方に安心できるサービスを提供できているかどうかについて、一定の基準を満たした派遣事業者を、「優良派遣事業者」として認定する制度なのである。

平成26年度 審査認定機関一覧(人材サービス産業協会 WEBサイトより)

優良派遣事業者認定への道程

ではいったい、「優良派遣事業者」の認定を受けるためには、どのような審査が行われるのだろうか?認定審査においては、派遣事業に関する95項目の審査項目において、自社の取組みを提示し、審査機関に認定される必要がある。原則として、全95項目全ての項目において、要求基準を満たす実績を有する必要があるのだ(一部選択項目・他資格認定による免除項目有)。

認定の決め手は仕組みと実績

ちなみに、この審査、各審査項目に対応するための仕組みが社内にあればいいかというと、それだけでは不十分。各審査項目それぞれにおいて、実施・運用された実績が必要となる。実績や事例がない場合は、例え審査項目が自社のサービス領域外であっても、なぜ実績や事例がないのか、その理由を、客観的事実に基づいて、立証する必要がある。例えば、「派遣社員と派遣先企業のミスマッチはありません!」とこたえるには、なぜ、クレームがないのかを、仕組みや取組みなどから、客観的に明示しなければ、審査をクリアできない仕組みだ。やっかいなことに、自社にとって都合の悪い事実や取り組んでいない事案は隠してしまえ的発想は、通用しない審査構造になっているのである。

優良派遣事業者認定への審査項目

「優良派遣事業者」の審査項目は、大きく分けると4つのカテゴリーに分けられる。

優良派遣事業者が「優良」ではない理由(挿入1)

それぞれのカテゴリーには、細かい審査項目が定められており、全てのカテゴリーにおける審査項目を合わせると、95項目になるといった構造である。個々の審査項目及び評価基準については、人材サービス産業協会のWEBサイトに公開されている。

平成26年度 優良派遣事業者認定制度
認定基準チェックリスト(人材サービス産業協会 WEBサイトより)

サービスの仕組みと実績と証明

この95項目、実に見事に、人材派遣会社が行う業務、行うべき業務を、隅々まで網羅している。法令遵守はもちろんのこと、法律上定められている派遣社員の権利周知など、一見派遣事業者にとって、利益を圧迫しかねない事案への積極的取組みを問われている。また、派遣社員へのキャリア・カウンセリング等キャリア形成支援や無期雇用化への取組みなど、派遣社員の雇用安定化に対する積極的取組みの実績、受け入れる派遣先企業への制度周知はもちろん、就業環境改善へ向けた具体的活動等についてもしっかりチェックされる。

優良派遣事業者が「優良」ではない理由(廻込2)そして、そのひとつひとつ項目について、取り組んだ実績とそのエビデンスを提示する必要がある。「出来ています」や「やってます」だけでは、審査をクリアすることは出来ない。各項目に対する対応方法、実際の事案、その事案の対応履歴、社内の共有方法と共有実例などを提示し、その実績を証明しなくてはならない。審査項目ごとに、マニュアルの該当部分を提示、実際に取り組んだ事例を説明、その事例の対応ログ、共有のための社内システム画面、外部に向けた周知実績、トークスクリプト・書面・WEBサイトなどなど、審査員がその運用状況を理解し、且つ、審査基準を満たすように、全て説明しなくてはならないのである。「やってます」だけでも、「これからやります」でも、「仕組みがあります」でも足りない。ただ、頑なに、ルールが存在し、実際に運用されていて、運用された実績を提示していくことこそが、審査基準をクリアする唯一の「道」である。

高いハードルと業界浄化への決意

今国内には、83,000にも及ぶ派遣元事業所がある。そのうち、人材サービス産業協会が主催した「優良派遣事業者認定制度」の説明会に参加した企業は全国で250社超。実際に審査を申し込んだ企業は99社。「優良派遣事業者」として認定された企業は、わずか85社である。それだけ認定に向けたハードルは高く設定されいる。

残念なことではあるが、派遣元事業主の中には、残業代を払わない、社会保険に加入させない、派遣禁止業務への労働者派遣など、違法行為や脱法行為に手を染めてしまっている派遣事業者が存在している事実がある。そして、こうした一部の企業により、業界の評判が悪化してきたことも否めない事実なのである。この「優良派遣事業者認定制度」は、こうした人材派遣業界が、自浄努力によって、自ら襟をただそうとする、決意の表れに他ならない。

「優良」とは言えない優良派遣事業者認定制度

優良派遣事業者が「優良」ではない理由(廻込3)筆者は、とある派遣会社で、この「優良派遣事業者認定」の取得に関わってきた。振り返ってみると、実に20年弱もの間、この業界に身をおき、日々派遣社員や派遣先企業と、様々な局面で向き合ってきた。そんな筆者が、この制度に関わってきて素朴に思ったこと。それは、優良派遣事業者認定制度は、「優良」な派遣会社を認定する制度ではないということだ。人材派遣がまだ専門26業務しか認められていなかった時代、人材派遣会社は、来る日も来る日も、派遣社員のキャリア形成やスキルアップと向き合い、派遣先と共に最適な人材活用を模索していた。その後、規制は緩和され、より多くの業務への人材派遣が認められるようになり、多種多様な企業が人材派遣業界に参入してきた。そして知らず知らずのうちに、自らが制御することの出来ない混沌とした業界になったように思えてならない。そして今、昨今の悪評を打ち破るべく、業界が自らを健全化しようとする決意の表れとして、「優良派遣事業者認定制度」が出来ただけなのではないか?

あるべき人材派遣会社像への挑戦

「優良派遣事業者認定制度」とは、文字通り「優良」な派遣事業者を認定する制度である。派遣社員に対しても、派遣先企業に対しても、「あるべきサービス」を提供している派遣事業者を認定する制度だ。しかし、あるべきサービスを提供している派遣事業者を認定する制度なのであれば、この呼び名はいささか大げさすぎるように思える。言うなれば、旧来より派遣事業者が求められていた、当たり前の人材派遣サービスを提供している派遣事業者を認定する制度に過ぎない。

故に、「優良派遣事業者認定制度」とは、「劣悪」でない「普通」の派遣事業者を、「優良派遣事業者」と称して、認定する制度に過ぎないように思える。いつの日か、「優良派遣事業者」であることが、業界のスタンダードとなること。派遣社員や派遣先企業が、「優良」ということばを探すことなく、安心して派遣会社を選べる日がくることを期待する。

厚生労働省委託事業 優良派遣事業者認定制度 WEBサイト
一般社団法人 人材サービス産業協会 WEBサイト

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